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大阪家庭裁判所 昭和40年(少ハ)7号 決定 1965年5月28日

少年 S・N(昭二〇・六・二生)

主文

本件申請を却下する。

理由

(本件申請の要旨)

少年は当裁判所の昭和三八年八月二日付中等少年院送致決定により浪速少年院に収容され、昭和四〇年四月五日仮退院を許されたものであるが、仮退院するに際し、犯罪者予防更生法第三四条第二項所定の一般遵守事項及び同法第三一条第三項により近畿地方更生保護委員会の定めた特別遵守事項を遵守する旨誓約していながら、同月○○日午後八時一五分ごろ、茨木市郡山四〇五番地所在の同少年院構内に無断で侵入し、同少年院西一寮の窓から鉄格子越しに在院中のA、Bの両名に対し、たばこ、マッチ、菓子、櫛、クリーム、エロ写真などを差入れ、その結果、両名を含む同寮の在院生三七名に規律違反を犯させた。上記の事実は前記遵守事項のうち同法第三四条第二項第二号(善行を保持すること)に違反するものであり、少年に対し深い反省と改悟を求め、遵法心と社会性を涵養させるなど、その資質を改善して完全な更生を図るためには、少年院に戻して更に一年間矯正教育を施す必要があるというのである。

(当裁判所の判断)

少年が本件申請の要旨記載のとおり遵守事項に違反したことは当審判廷における少年の供述及び保護観察官作成の質問調書により明らかに認められる。

しかしながら、犯罪者予防更生法第四三条第一項により仮退院中の者を少年院に戻して収容すべき旨の申請があつた場合、裁判所が右申請を理由があると認めてその旨の決定をするには、単にその者が遵守すべき事項を遵守しなかつたか、または遵守しない虞があるというだけでは十分でなく、特にその者を少年院に戻して収容する必要があることを要するものと解すべきであるから、少年にその必要があるかどうかについて検討する。

当審判廷における少年及び保護者の供述並びに調査報告書によると、少年は、仮退院後本件申請により引致されるまでの約一ヵ月余りの間、自宅で大過なく家業のパチンコ店を手伝つていたことが認められ、本件申請の理由となつている不法差入行為を除き、特に問題となる行状は見当らない。そこで差入行為であるが、少年院における矯正教育の実施を妨害し、その効果を減殺するものであり、そのもたらした結果の重大性からみても、到底容認されるべきではなく、その行為自体少年の性行が完全に改まつていないことの徴表であるといえる。このような観点から少年を少年院に戻して再び矯正教育を施すことに一応の根拠がないではないが(但し、報復ないし他戒の意味を強調するのであれば、少年が近く成年に達することに鑑み、むしろ刑事処分に委ねるべきであろう)、少年は通常よりも長い期間少年院に収容されていたものであり、大阪少年鑑別所の鑑別の結果及び在院中の処遇経過にもみられるとおり、再び少年院に収容してもその性行について早急な矯正教育の効果を期待することは困難であると予測され、環境その他諸般の事情を考慮しても、現時点で少年院に戻して収容するほどの必要は認めがたい。少年に対しては保護観察等の補導監督のもとに家業に定着させつつ、自己の将来に対する生活設計を持たせるよう長期にわたり指導していくことが最も適当であると考える。

よつて、本件申請は理由がないので、犯罪者予防更生法第四三条第一項、少年院法第一一条第三項、少年審判規則第五五条により、主文のとおり決定する。

(裁判官 安井正弘)

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